3008人が本棚に入れています
本棚に追加
「名前は?」
「時雨<シグレ>です」
「この屋敷で働き始めたのはいつから?」
「ずっと、前からですね。確か… 今年で6年になります」
背伸びをする愛季から傘を受け取り、時雨は自分達の上に差す。
激しさを増した雨が、傘に当たってバタバタと音を立てた。
「恋人は?」
「いません」
「どうして此処で働いてるの?」
「貴方は何でも聞きたがるのですね」
中途半端に伸びた前髪の奥で、優しげな瞳が細くなった。
「うん、だって僕はコドモだから」
嬉しそうに、愛季も笑う。
雨に濡れた髪が揺れ、今の愛季はまるで雨の中で燥ぐ妖精の様だった。
「…主が惹かれるのも分かりますね」
小さく零した時雨の声は、更に強さを増した雨音に掻き消される。
最初のコメントを投稿しよう!