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そんな事も露知らず、こちらは愛季。
「…何、コレ」
「主の趣味… かと思われます。よくお似合いですよ」
「嬉しくない」
別室に向かった愛季が着せられたのは、女物の着物。
淡いブルーの地に、濃い青で描かれた菫が踊る。
軽く結われた黒い髪には、着物の菫と同じ色の花の髪飾り。
それらを身に纏った愛季は、どこからどう見ても女の子であった。
「…まぁいいや、文句は直接あの人に言うことにする」
「はい。では、そのまま真っ直ぐ進んで、奥の間へ…」
時雨は愛季の服を丁寧に畳んでから、治療に使った包帯などを片付けた。
「時雨さんは来ないの?」
「私が行けば、主が怒りますから」
苦笑を零し、時雨は立ち上がった。
「貴方は… とても、尊い方です。送り出すのは心苦しいのですが…」
「…僕は、貴方もいい人だと思う。さよなら時雨さん、包帯有難う」
愛季はそう言って時雨に笑いかけ。
…奥の間へ向かった。
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