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「…着いたよ。此処が、今日から君の家になる所だ」
「有難うございます。それじゃ、後は僕1人でやれますから。入学届を」
愛季は叔父から入学届を受け取ると、校門に向かって歩き出した。
そんな愛季を最後まで見送りもせずに、叔父は車のドアを閉める。
「あ…」
聞く耳を持たず、そのまま走り去る車に、愛季は呟く様に言った。
「…有難うございました」
言ってから、満足げに溜め息をつき、愛季は校内に足を踏み入れる。
やたらと広い校庭には、砂埃が巻き起こっていた。
何年も放置されたかのような、伸び放題の芝生。
手入れするべき葉が1枚も無い、ただ白いばかりの枯れ木。
「…可哀想に」
愛季は最寄りの枯れ木に近付き、そっとその木肌に触れた。
「誰かに燃やされたんだ… これは自然に枯れた痕じゃない」
僅かに眉を顰め、愛季はゆっくりと木肌を撫で下ろす。
焦げた木肌の匂いに、ふとあの夜がフラッシュバックする。
心なしか枯れた涙がまた出てきそうで、愛季は潤んだ瞳を叱りつけた。
「…情けない、な」
「なーにがっ」
「っ!?」
突然聞こえた声に、愛季はバッと勢い良く振り返る。
いつの間にか、誰かが愛季の後ろに居た。
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