女博士『リョクレン』

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 大きな桧の浴槽には先客が居た。  リョクレンだ。  肩までの髪を湯に遊ばせ、真っ白な頬を艶やかに上気させて、実に幸せそうに湯に漬かる。  美しく、そして可愛らしい方だ。  女で、その上幼いシンシャだが、不意にそんな感情が浮かび上がり、素っ裸のまま立ち尽くす。 「あら!シンシャちゃん」  本当に今し方気がついた風にリョクレンは言うと手招きをして、 「一緒に入りましょうよ。良いお湯よ」  と、実に朗らかに言う。 恥ずかしさに気圧され、身動き出来ないシンシャに、リョクレンは更なる声を掛けた。 「裸で居ると風邪をひくわ、さあ、おはいりなさい」  確かに寒いし、その上貧相な裸身を曝すのは更に恥ずかしい。身分違いの自分と、一つ湯船に浸かる是非も有ったが、勧めを断るも非礼に思え怖ず怖ずと湯船に浸かる。  湯加減は温くも熱くもなく適当。ただの井戸水を沸かしただけの湯だが冷えて強張った体には有り難かった。  ただし、シンシャの体は緊張で堅いままだったが。 「炎天下を歩いた後のお風呂も気持ち良いけど、真冬のお湯にはかなわないわぁ」  そう呟きながら湯を掻き回すリョクレン。  湧き上がる波に彼女のたわわな乳房が踊る。  思わず目をやるシンシャ、そして己の未発育なそれと見比べる。  恥ずかしくなり、顔面全てを湯に沈めた。 「昼間、出会った時、ジャモン様は『故あって一緒に旅をしている』っておっしゃってたけど、シンシャちゃんはジャモン様とどういう間柄なのかしら?」  唐突に降ってきた問いに、思わず湯から顔を上げる。  まさか有り体に話す訳にもいくまい。  瞬時にそう判断したものの、かと言って今まで付いてきた嘘ではまともな説明には成らないとも思え、結局はうなだれるより他に無い。  その間、リョクレンの少女の様な曇り無い無邪気で真摯な眼差しが彼女に注がれ、シンシャの拍動は湯の熱さも手伝い益々高鳴る。 『ジャモンさんに断りもなく、本当の訳を打ち明けられない』  リョクレンを巻き込みたく無いと考えるジャモンの手前、真相を語るわけには行かない。正直に『言えない』と断ってしまおう。  結局そう腹を括った。
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