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雪上に残された四本の航跡を追いながらジャモンとシンシャは進む。
航跡の主はリョクレンとその従者ジャリ。
後続から離れすぎない様上手く速度を抑える様は、二人の旅慣れた度合いを現していた。
それでも、カンジキに慣れたばかりのシンシャはどうしても遅れがちになる。
リョクレンはそれをジャモンが声を掛ける前に気付き停止し追い付くのを待つ。
その度にシンシャは申し訳なく思いつつ、リョクレンと言う人の優しさに驚くのだった。
どれくらい高貴な家かも計り知る事の出来ない雲上人なのに、下賤の娘に細やかな気遣いを見せる。
頓着が無いのか、それとも性根から思いやり深く優しいのか?
しかし、『セツロウ』の腑分けに没頭していた時の彼女の顔を思い出すと、そうとも言い切れない気もする。
眼鏡越しに垣間見えた、一切を見落とさぬようカッと見開かれた眼は、どこか恐ろしげですらあった。
、そもそも都に居れば毎日苦労のかけらも知らず、夢のような楽しい暮らしが出来るだろうに、わざわざ下々と変わらぬ成りで旅をしている。
その上、本来なら目にするのも忌まわしい『妖』に付いて調べていると言う。
と、言う事は単なる変わり者か?
しかし、考えようによればこれこそ雲上人らしい様とも言える。
学がない自分には推し量れぬ事だ。
結局。そう思い定めシンシャが考えるのを止めた時、雲上人らしからぬ大声をリョクレンは上げた。
「宿場!宿場が見えましたわ!!」
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