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ジャモンとシンシャは、『ソゴメの宿』のほぼ中ほどにある両替屋の軒下で、所在下無く通りを眺めていた。
リョクレンが為替を金に換えると言うので、街に土地勘のあるジャモンがここまで案内してやったのだ。
しかし、両替屋は混雑の真っ最中。中では行商人や街の商人と、両替屋の手代や使用人らが喧々諤々のやり取りを延々と続けている。
強面で、なおかつ商いに成れたジャモンなら、他のものを掻き分けてでも用事を済ますだろうが、女の身で尚且つ育ちが邪魔をするリョクレンではそうは行かない。
他人の懐の話しなので手伝ってやるわけにも行かず、ただ待つより他無い。
「ま、日が暮れるまでに銭になればいいか・・・・・・」
そう呟くジャモンを見上げた後、シンシャはまた通りに目線を遣った。
『ソゴメの宿』は、彼女が訪れた今までの宿場とは又違う活気に溢れていた。
行き交う旅人の顔は髭に覆われ彫りも深く、色白な者が増え、見た目の生業も猟師や樵、炭焼き職人が多く見えた。
また、露天で売られる品々にも絹や木綿は数を減らし、毛皮や毛織物が殆どを占め、屋台の食べ物も獣の肉を使ったものが殆どになる。
『寒い場所では獣の肉をたんと食らい、体に脂を着けねば成らんのだ』
ジャモンがそう言ったのをふと思い出す。
建物の見た目もずいぶん変わり、屋根は瓦や板葺きではなく萱か桧皮、空を突き刺す様に鋭く尖り雪を溜めぬように工夫されている。
ただ、宿屋の仲居が甲高い大声を張り上げ客を引き、屋台の店主が独特の節をつけ品を売る口上を述べるのは変らない。
「ここより北には『サビ谷』まで宿場は無い。だからあそこで商いをする者が多く泊まるのだ」
活気満ちる喧騒にを眺めながらジャモンは言う。
「ザビ谷・・・・・・」ジンシャその街の名を呟いて見た。
途端に本来なら心浮き立つはずのにぎやかな通りの風景も目に入らず、喧騒も耳に届かなくなる。
ジャモンの友、カンランの住む街、そしてジャモンの運命を狂わせた場所。その先には彼の怨敵『為笹王』が住む『オバ峰峠』がそびえる。
自分は徐々に旅の終わりに近づいている。シンシャは確信する。きっと、凄まじい戦いが待ち受けるはずの場所が。
解けた雪で濡れ汚れてた雪靴の爪先を見つめながらジャモンの傍らに立つほか無い。
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