女博士『リョクレン』

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 今宵の宿と成った『ミミズク荘』は宿場の中程にある間口の広い商人宿だった。  店先は丁寧に雪かきされ、緋色の暖簾も鮮やかで、土間の下駄箱には無数の雪靴が整然と並べられていた。  客引きをしていた、シンシャと変わらぬ年頃の中居を呼び、亭主に取り次いでもらう。  しばらくして、転がるように慌てて出て来たのは、四十絡みのよく肥えた血色の良い小男だった。 「これはこれは!毎度ご贔屓、有難う御座います!ジャモン様!!」  球のように太った亭主が腰を折れば益々真ん丸く見える。 「済まんがまた厄介になる。連れが居るんで、二部屋欲しいのだが」  ジャモンの注文に、亭主は腰から下げた小さな帳面に素早く目を通し、人の良さげな笑みを浮かべ答えた。 「よろしゅう御座います。ちょうど二部屋御座いましたので、そちらにご案内致しましょう。で、お部屋割りは?」  亭主の問いにジャモンはしばらく考えた後。 「此方の娘さんとお付きの子と分けてもらえれば良い」  と答えた。 「お気遣い無く、一緒でも構いませんのよ」  リョクレンが言うがジャモンは頭を振る。 「いやいや、年頃の若い娘さんと一つ部屋で眠るなど、流石の私でも出来ません」  そして、汗や解けた雪で湿った雪靴や綿入れを預け、中居の案内でそれぞれ割り振られた部屋へ向かう。  付いて来るリョクレンは少々不満げだったが、部屋に入ったジャモンはシンシャに呟いた。 「あの姫様と一つ部屋に閉じ込められたら、質問攻めにされ寝かせて貰えんだろう」    シンシャは思わず納得していた。
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