565人が本棚に入れています
本棚に追加
今宵の宿と成った『ミミズク荘』は宿場の中程にある間口の広い商人宿だった。
店先は丁寧に雪かきされ、緋色の暖簾も鮮やかで、土間の下駄箱には無数の雪靴が整然と並べられていた。
客引きをしていた、シンシャと変わらぬ年頃の中居を呼び、亭主に取り次いでもらう。
しばらくして、転がるように慌てて出て来たのは、四十絡みのよく肥えた血色の良い小男だった。
「これはこれは!毎度ご贔屓、有難う御座います!ジャモン様!!」
球のように太った亭主が腰を折れば益々真ん丸く見える。
「済まんがまた厄介になる。連れが居るんで、二部屋欲しいのだが」
ジャモンの注文に、亭主は腰から下げた小さな帳面に素早く目を通し、人の良さげな笑みを浮かべ答えた。
「よろしゅう御座います。ちょうど二部屋御座いましたので、そちらにご案内致しましょう。で、お部屋割りは?」
亭主の問いにジャモンはしばらく考えた後。
「此方の娘さんとお付きの子と分けてもらえれば良い」
と答えた。
「お気遣い無く、一緒でも構いませんのよ」
リョクレンが言うがジャモンは頭を振る。
「いやいや、年頃の若い娘さんと一つ部屋で眠るなど、流石の私でも出来ません」
そして、汗や解けた雪で湿った雪靴や綿入れを預け、中居の案内でそれぞれ割り振られた部屋へ向かう。
付いて来るリョクレンは少々不満げだったが、部屋に入ったジャモンはシンシャに呟いた。
「あの姫様と一つ部屋に閉じ込められたら、質問攻めにされ寝かせて貰えんだろう」
シンシャは思わず納得していた。
最初のコメントを投稿しよう!