女博士『リョクレン』

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 通された部屋は六畳程のこじんまりとしたもので、畳の上には暖かげな段通を敷き詰められ、火鉢にはよくいこった炭が詰めており、暖気が満ちてなかなかに快適だった。    冷えた手を火鉢で炙りながら、ジャモンは苦々しく呟く。 「さて、あのお姫様、どうしたものか」  荷を解いていたシンシャはしばらく手を止め考えを巡らせ言った。 「良い人だと思います。お付きの男の子はむっつりして怖いけど」  口角を上げ、笑いながら茶を啜った後ジャモンは返す。 「多少変わってはいるが善良なお人だろうよ。だが問題はこれから先の妖撃に、付き合わせる事が出来るか否かだ」 「あの方はお知恵もありますし、立派なご身分もお持ちです。それに身分で人を分ける事もしません。お味方に成ってもらえるかも」  ジャモンの目が、大きく見開かれたのを、シンシャは見逃さなかった。 出過ぎた事を言った。 叱られる。  そう思い一瞬身構え、居住まいを正す。  しかし、ジャモンはまた表情を変え笑って言った。 「おいおい、怒っているのでは無いぞ。感心しとるのだ。余りにも賢い事を言うのでな。しかし」  そこで言葉を切り、また湯呑みを呷ると話を続ける。 「知恵が有るだけでは妖撃は出来んし、身分の高さが邪魔になる場合もある。何よりこれ以上他人を巻き込む事は忍びない」  自分を巻き込んだ事を自身で責めているのだ。シンシャはそんなジャモンの心中をすぐさま察し、言葉をかけようとした。  しかし、いきなりジャモンが投げてよこした手拭いが、その勢いを削ぐ、反射的に手を出し受け止めた。 「後の事は俺が考える。お前は湯にでも行ってこい。ここは温泉では無いが、湯船が広く気持ち良いぞ」  また、言葉がのどの出口まで出掛かったが、無理やり飲み込んだ。  頭を下げ黙って湯へ向かう事にする。
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