女博士『リョクレン』

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夕餉の膳を飾ったのは正に心尽くしの品々だった。  塩や香草、タレで味付けした山鳥の串焼き、根菜類の天ぷら、ワラビ、干し大根、芋柄などを揚げと共に炊き込んだ物、岩魚の刺身、山盛りの漬け物、そして焼き枯らした岩魚を炊き込んだ飯。  ほとんどが保存食故に彩りは良くないが、中身、量共に豪勢と言え、リョクレンは頓狂な歓声を上げジャリは生唾を飲み込み、シンシャも食べ切れぬのではと目を見張る。  ジャモンは口の中で呟いた。 「オヤジめ、無駄に張り切りおって」  それでも一日雪中を歩き詰めに歩いた四人にとってはどうと言うこともない量だったようで、半時も立たぬうちに膳の料理はことごとく消え去った。  普段から体作りの為食いだめするジャモン、育ち盛りのジャリはよく食べるのは解るとして、都住まいの奥ゆかしき大家のご息女であるはずのリョクレンの健啖ぶりにシンシャは驚いた。  流石に食べる所作は優雅で隙の無いものの、その速さと一度に口にする量は男並み、オマケに一つ一つの料理に箸を付ける度に講釈を垂れるのも面食らう。 「まぁ、この山鳥のなんと味わい深いことで御座いましょう!」「山のお芋を揚げるとこの様にほっこりと仕上がるものなんで御座いますね!」「ああ、この菜のお漬物、酸味がクセになりそうですわ」と、いった具合。   普段からこんな按配なのかジャリは知らぬ顔で膳に集中するが、ジャモンは半ば呆れつつ杯を傾け料理をつつく。 「ああ、美味しゅう御座いました!都では決して口に出来ぬ滋味豊かで野趣溢れるお料理、堪能致しました!!」    帯びに手を当て、満足げに言うリョクレンをうんざりとした顔で眺める。またその口が何か長ったらしい口上を述べると思えたからだ。  突然、思い立ったようにジャモンは仲居を呼び追加の酒と肴、そして杯を持ってこさせ、それが来るとリョクレンに言った。 「酒々は、嗜まれますか?」
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