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ジャモンはよいよ腹をくくり、仲居にまた徳利を持ってこさせる。
「ごっつぉさん」と腹を摩り出てゆくジャリの背中を見てシンシャに言った。
「お前も先に部屋に戻って休め」
途端に彼女は頭を振った。なにかここで自分だけ部屋に戻るのはジャモンを裏切る感じがしたからだ。
風呂場で感じた彼への負い目がそんな風に思わせたのかもしれない。
「好きにしろ」ジャモンはそう素っ気無く言い放つ。
リョクレンは、実に熱心にジャモンに対して質問を浴びせた。
今まで斃した『妖』の数や種類、場所、妖撃の戦術や『妖』の生態、などなど。
一つの質問に答えればその答えから別の疑問を見つけ出しまた質問のタネにする。或いは自分の知識を出してみてその誤りを指摘させてみたりもする。
時に彼女からジャモンも驚くような知識が飛び出し彼も眼を見張ることもしばしば。
最初はうっとおしがっていたジャモンも、酒の力もあるかもしれないが徐々に本腰をいれ熱を入れて答えるようになってきた。
この方は本当に頭の言い方なのだ。そして学ぶこと知ることがとことんお好きなのだ。
シンシャは感心しつつ確信する。
新しい知識が身に付く度その曇りなき少女の様な瞳は輝き、艶やかな頬は紅潮する。
知らぬ間に、彼女に対し憧れの様なものを抱いていた。
「今宵はホンに、ホンによい学びになりましたぁ!『明異別曹』でも得られぬ数々の知識を得ました!!ジャモン様、有難う御座いますぅ」
少々呂律が妖しくなってきたリョクレンが深々と頭を下げる。
顔を真っ赤にし、目をしばたかせながら安心した風のジャモンが返した。
「いやいや、お勤めのお役に立てたのなら幸いです。さて、今宵はもう・・・・・・」
と言い掛けた時、指を一本立ててリョクレンが言った。
「最後にもう一つ、もう一つだけ、ジャモン様のご意見を承りたいのですが」
小さな、酒臭いため息を着いてジャモンは「なにか?」
居住まいを正し、潤んだ、しかし真摯な視線をジャモンに向けリョクレンがたずねた。
「ジャモン様は、『妖』とは何だとお考えですか?言い換えれば『妖』とは何の為にこの世に居るとお思いですか?」
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