奴婢ノ市

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 待ってましたとばかりに商人はそろばんを弾き出した。 「上金三枚中金一枚って所でどうで御座いましょう?」 「上金二枚だ」  途端に商人の顔が曇り、声が低くなる。 「ご冗談を旦那様、この器量で、おまけに生娘で御座いますよぉ」 「さっきの口上を真に受けると、お前もこの娘を早く売ってしまいたいのだろう? もし、キヤの国のやんごとない血筋の娘が生きていると成れば、お上が黙って居ない。違うか?」  語るに落ちた商人は口ごもる。  男は畳み掛けた。 「上金二枚中金一枚なら、何とか払える」 「上金三枚まで頂けませんかねぇ」  食い下がる商人。  男は手のひらほどは有ろうかと言う金の板二枚と、その半分の大きさの金の板一枚、そして、先ほど娘に嗅がせた沈法香の瓶を商人の目の前に置いた。 「これで手を打とう。この沈法香、これだけで上金二枚の値打ちがある。お前の今後の商いにも役立つだろう? どうだ?」  商人は烏帽子を脱ぎ捨て、地面に叩きつけ、毛の無い頭をしばらく掻き毟った後、苦しそうに言った。 「ええい! よう御座んしょう!!それでお売りいたしましょう」  すぐさま男は娘の手をとり、立ち上がらせ。 「行くぞ」 と声を掛ける。そして、目にも止まらぬ早業で、腰に下げた大きな山刀を抜くと、娘の首に打たれた荒縄を一発で切り、店を立ち去ろうとする。  商人はその背中に向け嫌味言を吐き掛けた。 「こすっからい野郎だ! どうせその性根みたいに小さな一物しか付けてねぇから、あんな小娘を手篭めにするしかできねぇんだろうさ!」  そんな罵声に耳を貸す事無く、男は人ごみの中を、娘の手を引いて消えていった。
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