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「それはまた……えらく急だな?」
「うん。“急な用事”だから」
唐突にそう言った為か、少し驚いた様子の兄に向けて安心させるように微笑む。
「長引くかもしれないから、先に帰ってて」
「あぁ、分かった。日が暮れる前に帰るんだぞ」
はぁい、といい子の返事をして兄の頬に手を触れる。
それで俺が何をしたいのか察してくれた兄は、少し屈んでくれた。
「……いつも思うが、兄弟同士でこれは……」
「欧米では普通だからいいの」
兄の頬に口付けを一つ落とす。
確かに高校生の兄弟がすることではないかもしれないが、これは“証”だ。
俺は兄のもので、兄のためなら何をしたって構わないという――誓いの証。
「いってきます」
「気をつけてな」
優しい兄へ極上の笑みを捧げてから、生徒会室の外へ出る。
少しひんやりとした風が、甘い時間で緩みきった俺の頭を覚醒させた。
「ストーカー……兄貴に迷惑かけて生きていられると思うなよ」
ズボンのポケットに手をいれ、携帯を取り出す。
暴力行為を兄に禁じられているから、少々回りくどい方法を取らなければならないが――構わないだろう。
その分たっぷりと苦痛を味わえ。
神は優し過ぎるから、罪人に罰は与えない。
いや、その手を罪人の為に使うことが勿体無い。
だからこそ――俺が代わりに与えなければ。
どんな天罰を下すか考えながら、俺は唇を歪めて笑った。
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