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「可愛い弟を持って、僕は本当に幸せだな」
口付けられた所をシャツの裾で乱暴に拭う。
天使のような、と称される程の容姿を持つ奴が施したものだが、嫌悪感しか残らない。
「……しかし、こんなに早く帰ってくるとは」
ポケットから携帯を取り出し、アドレス帳から見慣れた名前を呼び出す。コール。
「やあ、親友。しくじったな」
『つ、月様……申し訳ありません』
電話の向こうから、心底申し訳なさそうな声が聞こえる。
「おかげで、お金持ちのご令嬢との御楽しみ中に乱入されたよ」
まあ、あの絶望の表情も最高に良かったけども。
『すいません……彼女がまた途中で邪魔をして』
「空のことか? ……彼女は慈悲深いから、どんなに薄汚い奴にでも手を差し出す」
ふぅ、と溜め息をついて、彼女を思う。
美しい長髪に凜とした顔立ち。それでいて聡明。
あのご令嬢とは比べものにならないほどの素晴らしい女性――いや、比べること自体が失礼か。
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