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「そ、ら」
彼の声で、殺意の囁きが途絶えた。
彼に悟られないように殺意を胸の奥にしまい込んで、私は笑顔を浮かべる。
「なぁに?」
彼は漆黒の瞳に私を映し、ゆっくりと息を吐いた。
「いつも、ごめんな」
あ、ああ、あ、謝らないで!
貴方の為なら命だって惜しくはないのだから、これくらい大したことはないのよ!!
そう叫びそうになったが、私は耐えた。
彼に私の思いを伝えるのは、まだ早い。
「気にしないで。――それより、前から思ってたんだけど、あんな奴ら蹴散らすくらい簡単でしょう? 何故抵抗しないの?」
そう問い掛けると、彼は少し躊躇った後、口をひらいた。
「兄貴ともう二度と人に暴力をふるわない、って約束したから」
「月、に?」
コクリと頷く彼を、思いっきり抱きしめたい衝動にかられる。
ああ、いくら自分にも他人にも厳しい月でも、自分の弟が傷つけられているとなれば、それくらい許してくれるに決まっているだろうに!
「それよりも俺は男にこんなことして、何処が楽しいのか分からないね」
「それは――」
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