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「また? 怪我の手当てはちゃんとしなさいよ」
ふぅ、と溜め息をついて彼女は鞄を抱えなおした。
「じゃあ私、塾があるから」
そう言って彼女が俺の横を通り過ぎようとした時、俺はようやくその違和感に気付く。
これは、指摘した方がいいだろう。
「ボタン、かけ違ってるぞ」
「えっ!?」
普段あまり感情の起伏がない彼女が、珍しく慌てていた。
「体育の時かしら……教えてくれて有難うね。それじゃあまた明日!」
逃げるようにその場を走り去る彼女の背を見送り、また生徒会室に向かって歩き出す。
彼女の普段とは違う様子に疑問を感じながら。
生徒会室、と書かれたプレートの下のドアノブを掴む。
右に回して押せば、ゆっくりと開く扉。
「誰もいない、か」
副会長の空、書記の星以外にこの部屋に入れる人間は二人しかいない。
会計の雲は陸上部に行ってるだろうし、会長である兄貴はもう帰っているはずだ。
――だから、誰もいないのは分かりきった事なんだけども。
「やっぱりちょっと寂しい、なんてね」
独り言が部屋に響き、更に虚しくなった。
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