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「ぁ……ぅん……」
……?
耳に届いた小さな声。
誰もいないはずなのに、と思いつつ辺りを見回す。
「……ぃ……ぁっ」
「資料室か?」
普段は鍵をかけていて、あまり使うことのない部屋だ。
金色のノブに手をかけると、簡単にくるりと回った。
「オイ、誰かいるの、か……?」
開いた瞬間、嗅ぎ慣れて“しまった”匂いがする。
あの、汗と××の匂いだ。
扉を完全に開くと、薄暗い中で白いものがぼんやりと浮かび上がっていた。
長い黒髪が一定のリズムで揺れて、甘い吐息が唇から漏れる。
見開いた目に涙をいっぱいためて、俺を真っ直ぐ見ながらソファーの上の少女が叫んだ。
「あ、あぁ……ゃ……いやっ、見ないでえええええっ!!」
呆然と立ち尽くす俺の前で、体を反らし痙攣する少女。
その肩越しに見えた兄は、その彼女を冷たく見下ろしていた。
「あに、き?」
そう呼び掛けると、彼は視線を此方に寄越す。
それは先程とは全く違う、暖かいものだった。
「陽、少し外で待ってなさい」
子供に言い聞かせるような口調で、しかし、どこか有無を言わせぬ響きを持つ言葉に、
「……うん」
俺はただ、従う他なかった。
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