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父さんに母さん。
隆介まで死んじまった。
なのに、俺は生き残って……今ここにいる。
「なんで俺も死ななかったのだろう」
などと言う考えはない。そんな偽善的な発言は出来なかった。俺が考えた事はただ一つ。
「生き残ってよかった」という事。
この時、俺は自分がいかに醜い人間かを知った。みんなが死んでいったのに、俺だけ生きている。純粋に嬉しかった……自分が生きている事が。
医者たちは俺が精神的なショックから自殺を図るのではないか? などという心配をかけていたが、そんな事はしない、有り得ない。
死ぬのは━━━━怖いから。
けれども、不思議なことに、そんな自分にそれほど嫌気はささなかった。
そんなことがあり、帰る場所を失った俺は叔父の勧めで、そして彼が経営者でもあるこのアパートに居座っていた。
「もし…………」
その先の言葉が出てこない。だんだん惨めになって、沈黙が幕を開けた。
もうこんな事を考えるのはよそう。考えたとこで何か変わるわけでもあるまい。
そう思ったので、汗により重く苦しい体を無理に起こす。
ちくしょう。
「……いてぇ」
事件の時に負った火傷が疼く。まるで、俺自身を俺を責めるように。
いや……。そんな事あるわけないだろう?
現実に、傷口という単なる事象が自分自身を責めることなんて有り得ないのだから。
そう思い、苦笑する。
馬鹿馬鹿しい。
現実にあるのは、
「脆くて崩れやすい世界」のみ。
ただそれだけなのだから……。
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