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二階建てのアパートから、逃げるように階段を駆け降りていく。しかし、途中で叔父に声をかけられ、止まってしまった。
「あれ?耕助くん、もう学校に行くの?」
「……はい」
父さんによく似た顔立ちと赤毛。彼こそが、あの日から今日までの間、俺に住むところを与えてくれた人物。《晴嵐紅葉》(せいらんこうよう)さん。
正直な所、紅葉さんと話したくはなかった。だから、なるべく少ない応答で済むように返事をした。
「いつもより二十分も早いね……何かあったのかい? 朝ごはんはもう食べたの? まだなら僕の部屋に━━━━」
「……」
笑顔でペラペラと一方的に会話を押し付けていた紅葉さんだったが、俺が露骨に対話から逃げているのを感じとったのだろう。
表情は曇り、
「また、思い出してしまったんだね」
俺の身に何が起こったのかを察していた。
「……」
「ごめんね。そんな事言う資格も必要も無いのにね」
困ったように笑っている紅葉さんを見て、たまらず、反論する。しなくちゃ、気が済まないからだ。
「感謝してますよ。衣食住、全て揃えてもらって。でも……もうそれ以上は何も要りません。本当に解っているなら、もうふれないでください」
「……ごめん」
それだけ告げると、紅葉さんと俺は振り向かず、反対側へと歩み始める。
感謝の押し売りは…………もう充分だ。
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何の変哲もない、相楽高校へと連なる長い長い坂道を何も考えずに登り続ける。
……そんな時、不意に後ろから男子生徒らしき人物の声を耳にした。
「なぁおい、アレって《赤逆毛》じゃねぇか?」
「バカ!声がデケェよ……」
押し殺した声。それは酷く怯えている。
「触らぬ神にたたりなしだぞ!」
男子生徒の片割れは、先程と同様の声でくぎを差すように続けた。
……本当に怖がっているらしい。
彼等の足音はその場で停止してしまい、俺が何処かへ行くのを明らかに待っていた。
「赤逆毛、か」
逃げるようにその場から駆け出し、うざったいほど蒼い空を見上げて呟く。
《赤逆毛》。
俺がそういわれ始めたのは高校一年の入学式からだった。
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