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《窮鼠猫を噛む》。
まさに、それがよく似合った状況だったと言える。俺から見ればかなり善戦した方かもしれない。
もうすでに取り巻きの二人は地面に屈し、一番偉そうな奴も息も絶え絶え。……まぁ俺もだが。
様々な箇所を
殴られ、
蹴られて、
全身が痛む。
軋む。
だが、そんな事は気にならねぇ。
……あのクソ野郎をぶっ飛ばすまでは。
異常な気迫を感じ取ったのか、先程まで若干余裕を持っていた不良が呼吸を乱した。
勿論それを見逃すほど俺はお人好しではなく、すぐさま駆け寄り、その勢いを保ったまま今度は腹に染色された拳を突き出す。
「かっ……は」
後ずさりをするように移動しながら痛みに堪えるのが《滑稽》と思った。ざまぁみろよ。
「この死にぞこないがぁぁぁ!!」
気でも狂ったか。
あいつは後ろのポケットから刃渡りの短いナイフが取り出す。
「動くんじゃねぇ!!これ以上なんかしたらマジでぶっ殺す!!!」
「それがどうした?」
「へっ?」
間抜けな声が漏れる。
やっぱり《滑稽》だと再認識した。
「そんなモンでビビるとでも思ったのか?
生憎、こちとら一度死んだようなもんだ。
んなもん俺の《恐怖》の対象外なんだよ」
一歩一歩を踏みしめ、噛み締め、あいつに近付く。
「あああああああぁ!!」
圧力に堪えきれずに、奴のナイフが肉に食い込み、裂ける音が鳴る。
左腕からまるで炭酸飲料を振って開けた時のように出血した。
「死ね」
俺は消え入りそうな声を発した後、小指から順に握りしめ、拳を力強くかたどり、右頬に拳を埋めた。
自分の腕が完全に伸びきるまで力強く頬にねじ込む。
……終わった。
やっとそいつは意識を失い、俺は深く呼吸をしたのを今でも鮮明に覚えている。
その時、その光景をみた一人の生徒が赤色の逆毛を持ち、血で真紅に彩られた俺を……。
《赤逆毛》(あかさかげ)と呼んだ。
結局、その事件はナイフで傷つけられた俺は《正当防衛》と言うことで、特に咎められはしなかった。
そして、その連中は近所でも有名な不良達らしく、それを倒した俺は恐怖と畏怖の対象になり、現在に至る。
なるべく人とは関わらないように。そう生きていこうとした俺にとっちゃ、えらく都合がいいがな。
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