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…………と、まぁ。
そんな事を陰でいわれようがなにされようが。もちろん報復なんてするつもりなんてサラサラない。馬鹿には勝手に言わせておけばいいからだ。何時の間にか憂鬱になってしまった事に気付き、足取りが悪くなる。
丁度溜め息を吐こうとした時、誰かに肩を強めに叩かれる。
「よっ!なぁ~んだよ!浮かない顔してさ」
少しムッとしながら振り返ると、黒い短髪の少年が笑顔で立っていた。相も変わらず、グシャグシャになっている寝癖が、彼の性格を如実に顕している。
「大輔……か」
「大輔……か。じゃねぇよ!そんなんじゃモテねぇぞ?」
五領 大輔(ごりょうだいすけ)。
事件が経った後も今も変わらずに俺と関わり続けている、ただ一人といってもよい友。お調子者だが、いい奴だ。あと、俺と違ってかなりお人好し。いつもクラスの中心にいるような奴。そんな彼は、俺と全く正反対である。しかし。
一つ、共通点がある。
それは、俺も大輔も《家族がいない》こと。大輔の家族は皆殺しにされたらしい。詳しくは知らない。知ろうとも思わない。
俺もそうだが、人には絶対に触れてはいけない禁止事項(タブー)が在るものだ。何より自分がそれを持っているのだから。痛みは誰よりも伝わりやすいし、感じやすい。
だから、聞かない。
「赤逆毛かぁ」
大輔が不意に話題を俺に振ってくる。歩きながら、顔すら向けずに明後日のほうを眺めている。
「正直のトコ。どうよ?やっぱイヤなのか?」
「別に、只恐怖の対象になるだけだ。余計な人間関係を作らずに済むし。なかなか俺は使えると思うがな」
「……そうか」
それからは、俺達の口からは何も出ずに。まだ冷たい春風が空間に充満していた。
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