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空気が切り裂かれる音と共に、目の前が真っ白に、一瞬だけ塗り替えられた。《巨大な何か》によって。
「へ━━?」
遅れてやってきた衝撃。それにより、頭を座席へと叩きつけられて視界が揺らぐ。視点も定まらない。
「あ……あ……うああああああああああああああああああああああ!!!!」
隆介の耳をつんざく悲鳴で、無理矢理目を見開く。俺の虚ろな眼に飛び込んできたのは、《白》ではなく━━。
血の《紅》。
ミンチされた《肉》。
そう……俺達の前2、3列の人間は━━死んでいた。
「!!!!」
全員が恐怖に駆られた。勿論俺も例外ではない。
ある者は叫び。
ある者は泣き。
ある者は沈黙。
ある者は狂い。
ある者は気絶。
それ以外は死。
例外などない。
やがて、《殺された人間》を境目にして、機体はバキバキと《真っ二つ》に折れ曲がった。重力の流れに沿って、座席の無くなった空間へと投げ出される。
「……っ!」
一瞬高さを平行に保った金属の塊も、やがて、薄暗い蒼海へと近づいていく。機体から投げ出されてから落下し始めて数秒、盛大な爆発音と共に炎が俺の体を襲う。
「死ぬのか?」といった不安が全身に駆け巡り、顔が青ざめていく。しかし、この事を不幸中の幸いと……人は言うのだろうか。
炎は様々な金属片に行く手を阻まれ、右頬辺りをかするだけだった。
《かする》といっても、想像を絶する痛みに、ただただ悶絶して苦しむ。
耐え難い。まさしく、《声も出ぬほど》痛みを感じた俺には、《不幸中の幸い》なんて平気で言えるような余裕は無くなっていた。
死んだら意味ないし。
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