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「ああぁぁあぁあぁあぁぁ!!!」
叫んだところで何も変わらない。変われるはずもない。わかっているが……。心の何処かで期待してる自分がいた。死を待っているのが恐い。たまらなく怖かった。
その時、俺は見た。信じられぬ光景を。
「━━━━」
言葉を失った目線の先には、鈍く光る黒い機械。右手には、先程旅客機を切り裂いたであろう、銀色に輝く剣。別段目立った装飾はない。ただシンプルな分、とても力強く見えた。
なんなんだ?
なぜあんなに大きい?
それだけの質量を持った剣だ。触れた乗客達が肉片へと変わり、辺りを真っ赤に彩るのは、至極当然の事であった。
言うなれば━━そう。
そいつは。
空想の産物であると思っていた。
人型のマシンだった。
呆けていると、突然鈍い衝撃が頭に伝わる。それは生半可なものではなく、鈍い音と共に視界が一気にブレて、同時に激しく吐血した。
「グボッ!」
虚ろで力尽きている眼には、血の付いた塊が入ってきた。どうやら俺の後頭部に金属片がぶち当たったようだ。
視界どころか、意識もぼやけて、今ではまともに物を視ることさえ出来なくなっていた。
(く……そ)
意識が遠のいていく━━。
消えそうな命の灯。
しかし、突然意識は覚醒する。
ここから少し距離を置いたところに、見慣れた。自分とよく似た赤毛の少年が、頭を下にして、真っ逆さまに墜ちていく姿だったからだ。
「りゅ………す」
最後まで兄弟の名前を言うことすら叶わず、ただただ右手を伸ばす。だが、絶対的な距離は、一向に縮まることはなかった。
弟に触れることすら不可能を悟った俺。今度こそ、終わったのだ。
朧気(おぼろげ)な瞳は黒いマシンを見つめていたが、やがてそれを拒否するかのように瞼は堅く閉じられ……。
気絶した。
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