4人が本棚に入れています
本棚に追加
ある日、彼のお陰だろうか。
悪と呼ばれる事がぱったりとなくなった。
悪い事をしても彼がくるからだ。
人々から、彼を呼ぶ声もなくなった。
平和になったのだ、と彼は喜び、満足していた。
彼は、翔び続けた羽を休めようと街に降りた。
何度も彼を呼んだ街。
馴染みのような人々のいる街に。
しかし、誰も彼と話をしようとしない。
彼の姿を見ると、皆足早に去ってしまう。
彼は翔び立った。
そして、他の街にも行ってみた。
しかしどこも同じ反応だった。
そう、平和になると誰も彼を必要としなくなったのだ。
むしろ、『自分とは違う』と、怖がり、嫌い、誰も彼を求めなかった。
しかし彼は翔び続けた。
まだ彼を必要と、いや、『人間』として接してくれる人がどこかにいると信じて。
幾日も幾日も休むことなく翔び続けた。
人を見つけては話しかける。
その度に怖がられ、逃げられる。
それの繰り返しだった。
それでも彼は翔び続けた。
幾度かの月が昇った夜。
とうとう彼は地に堕ちた。
身体が疲れたのではない。
心が、精神が悲鳴をあげた。
彼は地に堕ち、誰もいない森の中で、ただひっそりと、人知れず土になった…。
最初のコメントを投稿しよう!