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「うわぁ、すごい苔だな」
石の表面の大半が苔に侵食されており、原型が分からなくなりつつある。
「けど、なんでずっとこのままなんだ?」
境内には自分外誰もいないため、独り言のように呟きが口から漏れた。
「結界だから」
「うえぃ!?」
だが、俺の目は節穴だったらしく、突然背後から声を掛けられる。油断していたせいか、奇声まで発してしまった。
「あはは。変な声~」
声の主は愉快そうに笑う。
急に声をかけられた側である俺は文句を言ってやろうと振り返った……が、言葉を失ってしまう。
それは、目に映った人物が自分の想像を超える存在だったからだ。
綺麗な金色で長い髪の女の子だとか、顔立ちが良く可愛いだとか、見た目が中学生くらいなのに、一部育ちの良すぎる部分が存在を主張しているだとか、十一月になって冬に近い寒さなのにブカブカのYシャツ一枚しか着ていないだとか、そういった理由だけではない。
「それ……みみ……? しっぽ……?」
指差した先には金髪の頂点近くに違和感無く生えている黄金色の三角形。
そして、腰の辺りから伸びる、太くて触り心地の良さそうな金色のモフモフがあった。
「『みみ』? あぁ、これ? 『しっぽ』はこっちだよねぇ~」
女の子は頭の上にある二つの山をピコピコ動かし、腰から生えている金の物体をユラユラと振ってみせる。
本来顔の横に付いているであろう人間の耳は金髪のせいで確認出来ない。
上下に動く耳らしき物とクネクネ動く尻尾を眺めながら、俺は一つの結論に行き着いた。
「うーん……夢か」
「うん?」
「夢だ。そうに違いない」
「現実逃避の極みだね」
「ってな訳で、俺は寝直してくるから」
手を上げて帰ろうとする……が。
「ちょっと待った!」
「いっ……!」
肩を掴まれた。ただ、握力が尋常じゃないくらい強かった。
「こんなに可愛い娘が居るのに帰るの?」
「えっと、俺友達待たせてて……」
「ふーん」
女の子は俺の言葉を聞くとあっさり手を放してくれた。
痛かった……。
「貴方の友達は、彼女とデート中だよね?」
「え?」
「今トロピカルジュースを片手に、この神社とは反対の方向へ歩いてる」
何を言っているんだ?
そもそも、俺は友達のことについて一言も口にしていないはず。
まさか、メールの内容を見られた……なんて事は無いだろうし。
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