第一話(旧「出会いと封印と嫁(居候)」)

6/23
前へ
/23ページ
次へ
先程からずっと主導権を取られているため、仕返しに少しからかってみたが、案の定怒ったらしい。 言われて気付いたが、まだお互いに名乗っていなかった気がする。 道理で正確な呼び方が出来ない訳だ。 「じゃあ、自己紹介してくれよ」 「仕方ないなぁ。あたしは……」 『私の娘だ』 女の子が答えようとした瞬間、どこからともなく女性の声が聞こえた。 「なっ……何だ……あれ?」 声のした方を向くと、そこには巨大な炎の球体が浮いている。 「初めまして少年よ。私は『玉藻(たまも)』。そして、君の隣に居るのが娘の『小玉(こだま)』だ」 球体は紹介を終えると激しく燃え上がりながら形を変える。 巨大な獣の姿を形作った後、端の方から炎が徐々に体毛へと変化し、全長十数メートルはあろうかという金毛九尾の狐が姿を表した。 「お母さん、どうしてすぐ出てこなかったの?」 「観察したかったのだ。その少年がどのような者なのかをね。いきなり出て行けば恐れて萎縮してしまうだろう?」 俺を見ていた? どうして? 何かこの狐に祟られるようなことでもしたのだろうか? 「それで小玉よ、間近で見た少年はどうだ?」 「えーと、あたしから見て……」 一度俺を見た後に頬を赤く染めて俯く。どうしたのだろか? 「ふふふ、どうやら気に入ったみたいだな」 「責任取れって言われちゃったし……うぅ~……」 母親とお揃いの金色の耳を垂らし、顔全体を赤くする小玉。 こういった仕草は可愛らしく感じるのだけど……。 「……さて少年よ」 「へ?」 「突然だが、この子を貰ってはくれないか?」 「……は?」 えーと……こういう時の『貰ってくれ』というのは、この金髪狐耳少女を嫁にしろと言っているのだろうか? まるで意味が分からない。ドッキリか? 「結納の事だ。ちなみに、ドッキリではない」 心を読んだかのような言葉。 「さて、少年よ。我が愛娘を貰うのかどうか、今すぐに決めるのだ」 「い、今!? えーと……例えばの話で、貰うって言ったら?」 「ふむ。即祝言を挙げ、その日のうちに小玉と『契り』を結んでもらう」 契りって……。 「契り……契り……?」 小玉の頭の上には『?』が浮かんでいるように見える。 契りの意味は理解出来ていないようだ。 「小玉は純粋なのだ。少年よ、初夜は優しくしてやるのだぞ?」 玉藻は『孫の顔が見たいなぁ』と、わざとらしく俺を見下ろす。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1346人が本棚に入れています
本棚に追加