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先程からずっと主導権を取られているため、仕返しに少しからかってみたが、案の定怒ったらしい。
言われて気付いたが、まだお互いに名乗っていなかった気がする。
道理で正確な呼び方が出来ない訳だ。
「じゃあ、自己紹介してくれよ」
「仕方ないなぁ。あたしは……」
『私の娘だ』
女の子が答えようとした瞬間、どこからともなく女性の声が聞こえた。
「なっ……何だ……あれ?」
声のした方を向くと、そこには巨大な炎の球体が浮いている。
「初めまして少年よ。私は『玉藻(たまも)』。そして、君の隣に居るのが娘の『小玉(こだま)』だ」
球体は紹介を終えると激しく燃え上がりながら形を変える。
巨大な獣の姿を形作った後、端の方から炎が徐々に体毛へと変化し、全長十数メートルはあろうかという金毛九尾の狐が姿を表した。
「お母さん、どうしてすぐ出てこなかったの?」
「観察したかったのだ。その少年がどのような者なのかをね。いきなり出て行けば恐れて萎縮してしまうだろう?」
俺を見ていた? どうして?
何かこの狐に祟られるようなことでもしたのだろうか?
「それで小玉よ、間近で見た少年はどうだ?」
「えーと、あたしから見て……」
一度俺を見た後に頬を赤く染めて俯く。どうしたのだろか?
「ふふふ、どうやら気に入ったみたいだな」
「責任取れって言われちゃったし……うぅ~……」
母親とお揃いの金色の耳を垂らし、顔全体を赤くする小玉。
こういった仕草は可愛らしく感じるのだけど……。
「……さて少年よ」
「へ?」
「突然だが、この子を貰ってはくれないか?」
「……は?」
えーと……こういう時の『貰ってくれ』というのは、この金髪狐耳少女を嫁にしろと言っているのだろうか?
まるで意味が分からない。ドッキリか?
「結納の事だ。ちなみに、ドッキリではない」
心を読んだかのような言葉。
「さて、少年よ。我が愛娘を貰うのかどうか、今すぐに決めるのだ」
「い、今!? えーと……例えばの話で、貰うって言ったら?」
「ふむ。即祝言を挙げ、その日のうちに小玉と『契り』を結んでもらう」
契りって……。
「契り……契り……?」
小玉の頭の上には『?』が浮かんでいるように見える。
契りの意味は理解出来ていないようだ。
「小玉は純粋なのだ。少年よ、初夜は優しくしてやるのだぞ?」
玉藻は『孫の顔が見たいなぁ』と、わざとらしく俺を見下ろす。
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