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女が指をパチンと弾くと部屋の明かりが灯った。
驚きで動けない私を楽しむように女はまだ笑っている。
暗い月光から開放され、ようやくハッキリ部屋中が明るく照らされた時、私は探る事なく女を容易に見る事ができた。
室内は閑散としていているが豪奢なようにも映るのは、敷き詰められた高級感漂う赤い絨毯に洋風な猫脚の円卓。天井には白いシャンデリア。
最低限に抑えてはいるが、その広さは圧迫感の無いバランスに整えられている。
再び女を凝視すると、先程まで被っていたであろう長くうねる赤い髪のカツラを片手に、ジッと私を見つめる。本来の髪は藤色で、襟元で切り揃えられた前下がりがシャープなイメージを醸す。凛とした少し強きな深緑の双眸が、よりその容姿を際立たせている。
だがその目元には、どこか“懐かしい”という感情を彷彿させる泣きボクロ。
私の視線は決して邪な気持ちで見たわけではないが、女の白い胸元に浮き上がる光るものへと誘われた。
――ん?
「ふんっ、やっと気が付いた? アンタ、昔と随分変わったわねぇ」
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