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それは胸元に光る紅い石。
私のベルトに嵌め込んである石と同じもの。
その“紅い石”に関連した記憶が一瞬にして蘇る。
だが。いやだからこそ私は更に女を凝視し、記憶の糸を手繰る。手繰る。手繰る。
やがて暫くの沈黙を破るように、苦々しく唇を噛み締め思い切って言った。
「……す、すみません!! な、名前が……貴女の名前が出てこないんです!」
「…………な」
女の鋭く据わった目元がヒクヒクしている。それからの長い沈黙は、あまりに息苦しい程の重圧感で私の発汗作用を促した。
ブチッとどこかで音がした、ような気が。
んん、もしや……これは勘忍袋というものが……切れた、音、ですかね?
「ったくぅおのぉっ! 本っ当に思い出せないってのっっ!? 昔とはいえ、アンタも妖魔なんだよ!? どこまでいつまでマヌケなのよおおぉ──っ!!」
カツラが私の顔面に向かって飛んでくる。
私は甘んじて罰を受けた。
はい勿論、半泣き状態で私は謝罪するしかないですよねぇ。
「名前だけ出てこないんですよおぅ。ご、ごめんなさあぁいーっ!!」
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