記憶の行き倒れ

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「やっぱり信の思ってた通りね。てか、この石の事も忘れてたの?」 「い、石の事は覚えてますよ! ただ、その、石の意味は覚えてませんでしたが……。それに、もう一人の自分の事を教えて下さい!」  いつも自分一人で考え出すと襲う睡魔は、ここで払拭されるのだと実感した。頭が冴えたままである。ああ、そうなると色々知りたくなるものだ。  私は飢えた者のように身を乗り出したが、彼女は思った以上に私の記憶が抜け落ちた事にまだショックを受けているようだ。  私にとってはそんな今更、と過ぎる思考を脇において早くその先を急かす。 「私だって、記憶を取り戻したいんです」 「分かったわよ。シン、アンタは言ったの。<千年の刑>が終わる頃、この地に帰──」  ふいに、彼女の言葉を遮る幾多もの悲鳴が響いた。その悲痛な叫びは窓の向こう側からだ。  蒼白に顔色を変え、彼女は窓に向かって外を見る。  遮られた事に私は少し肩を落としたが、レンの震える背中を見てると何も言えなかった。  あのような悲鳴など、私には日常茶飯事なのだが、彼女は違う。  彼女は肩を震わせたまま怯えるような声で呟いた。 「……もう、災いが来たっていうの!?」  
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