序章

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 東洋の歴史は永きに渡り、多くの謎をつくった。その中で私は幾時代を旅したことか、我ながら自覚が無い。  無い、というには理由がある。  それは、“実感が無い――”のだ。  故に無自覚な旅程恐ろしいものはない。  気が付いた時には、ある街を歩きながら眺める景観が様変わりしている。またある時は、眠り付いたままであったせいか私は土の中に冬眠の如く……――もうこの思考は止めよう。何故だか自分自身が可哀相になってくる。  さて衣の懐をまさぐれば、どうやら私には路銀が尽きているようだ。はて、最後の記憶は確か……川辺で寝ていたはずだったが。  まあいい。せっかく街まで出てきたのだ。この辺で路銀を稼ぐとしよう。次にもしまた何か記憶を失い、目覚めた時にはせめて懐が温かければ申し分ないのだがね。  やがて空は東から吹く風と夕闇に交わり、冷たい空気が身を包み出した。  風に誘われるように私は街の賑やかな彩りとざわめきに溶け込んでいく。街の奥へ奥へと誘われる私の足は、壮大な建物の前で止まった。 「なんと見事な」  零れた感嘆の声は、人々の賑わいに掻き消されるが、威厳の高さと美を誇る巨大な城を踏み付ける賑わいは背後に遠く響くだけ。雄々しく建つさまは、私の心までをも魅了した。  この夕闇にも勝る宮城(きゅうじょう)の赤い屋根の背には、巨大に身体をうねらせる黄金の龍。まるでその城を守護しているかのようにさえ見える。  ──どこか懐かしい。  温かい気持ちが胸に染み込むとは、この事だろうか。  感慨深くもそんな気持ちを抱きながら、私は街を振り返り今夜の命を保持する為に踵を返した。  
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