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私は改めて街から先程の荘厳な赤い城を見上げる。
「また少し離れた所から見るとなんて荘厳な城……んん、しかし高く大きな姿はまるで街を見下ろして人間達を見張るような建造物ですねぇ。まあ、本来“城”というのはそういうものではありますからね。此処は城下街といった感じですね」
そんな独り言が増えたのも、私には話し相手がいないからだ。人混みに揉まれながらも城を見上げ、圧巻言い知れぬ喜びに浸りつつ路銀の稼ぎ場所を考えていた。
「さて、此処なら今回は宿屋の給仕でもあ……」
勢いよく背後からグイッと肘を引っ張られ、同時に中年男性の声が私を呼び止めた。
「おい兄チャン! うちで働かねぇか?」
「な、なんとこんなに早く見つけ、あ、いえ。よ、よろしいのですか!? あ……いやしかし、何のお仕事で?」
驚きと喜びに、つい一瞬舞い上がってしまったが、私はすぐ理性を取り戻して冷静に応えた。こういう誘いの手合いは慎重にならなければ危ないという本能。
「ヒヒヒッ、客引きよ客引きっ! アンタいいツラしてんじゃねぇか。そのメガネもなかなか似合ってて品があるぜ」
やはり──客引き……。この場合、たいてい良くない商売が多いと察する本能。
本能とはいっても実際は過去に何か苦い思いをしなければ出てくるものではない。そう考えると、私は更に身を固くする。
「お断りします! 私はただの旅の──」
「キャーッ! 貴方イイ男ねーっ。ねえおじさんっ。この人、いくら?」
私の返事を遮るように、黄色い声が耳をつんざく。その言葉に恐怖を感じたのは言うまでもない。
“いくら”と値踏みを受けたのはまさか……私の事ですか?
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