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ようやく人の群れから開放され辿り着いたのは、街からかなり外れにある森に囲まれた一軒の洋館だった。
月明かりに浮かぶそれは、街の雰囲気とは逸し蔦に絡まれた不気味さが威圧感を印象付けた。
「こ、ここが貴女の家ですか。まるで古い洋館みたいですねぇ。しかも、五階建て……?」
私が小さく震える声で言うと、女は手を離し館の中へサッサと歩を進めながらポツリと呟いた。
「話は中に入ってからよ」
うーん、なんだか最初の印象と随分違う気がするのですが。この人こそ、謎ですね。
不審に思いながらも、行くあての無い私は渋々女の後について行くしかありません。ですが五階まで伸びる螺旋階段を昇りつつ、情けなく目を回してしまいました。
「ったく、だらしないわね!」
時折舌打ちされ、振り回されてる自分自身を憐れに思うのは当然でしょう。
「何故、五階なんですかぁ?! 下の階に人の気配無いじゃないですかぁー」
掠れた私の声は、空しくも俯いたままなので足元の階段に叫んでるようにしかなりません。
「さ、着いたわよ」
「ハ、ハヒッ……や、はいぃーっ」
息を切らし目を回しながら、ようやく着いた部屋の扉は白く大きな観音開き。まさにそれも威圧感。
ようやく辿り着けた。その安堵感は私の疲労を一気に開放した。
女の余力は大きくその扉を開ける。
扉の向こうには、暗闇の中で一際月明りに浮かぶ──大きな紅いベッド。
あ……。
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