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女は襟元が乱れていた派手な着物を妖艶な仕草で脱ぎながら、私を妖しく舐めるように見つめる。
──ギクッ。
ま、まずいですよこの展開!
そうだ。私は流れに任されこの女に『買われた』のだった!
今更ながら、自分の置かれた立場に嘆いた。
一体私は何故いつもこうなるんだろう。
目の前の現状に腰が引けた私は薄闇の中、手探りでも分かる程広々とした部屋の絨毯を踏み締めるように隅へ隅へとゆっくり後ずさる。
邪に見える女の毒牙に非力な私は怯えた。
それでも白い肩を見せ、紅い絹に纏われ身ひとつになった女は、中央に据えられた存在感の強い紅いベッドの上に乗る。
私を誘う女豹のように、身体をくねらせうねらせ、腰を回したり前方回転や後方回転したり……。女の舌舐めずりは唇から顔ごと回る程で…………。
「……あのぅ、失礼ですが貴女、あまりこういう事慣れてないですね?」
少しビクビクしながら言った私に、女は明らかに赤面した。
「んな事でビビるアンタに言われたかないわよ! さあ、遠慮しないでこっち来なさいよ!」
私は思わず目をつむった。申し訳ありません。込み上げてくる笑いが虫が。
しかしまずいです!
今吹き出しては、一応乙女心を傷つける事にっ!
刹那、一陣の風が頬を掠めた。
不審に目を開けると女は眼前にいた。その距離、わずか五センチ程。
――え? ありえない。
どう見ても、ベッドからは最低でも十五メートルの距離はあるのに。
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