《シロ》

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 つん、と鼻孔を刺激する、独特な香り。  少し遅れて、太陽の匂いと共に、聞きなれた声が俺を呼ぶ。 「たぁま、帰ろうー」 「無理。俺、日直」  背後から回された腕を解き、日誌をぱらぱらと捲る。 「えー、」 「つか、いちいち抱きつくなよ」 「何で?」 「暑苦しい」 「たま、良い匂いする」  くんくん、とシロは俺のうなじに顔を寄せる。  嗅ぐな! ばしっと日誌で頭を叩くと、キャンディが詰まった鞄を床に置き、俺の前の席に着いた。  俺は再び日誌のページをぱらぱらと捲った。  暫く眺めていたシロは、猫が戯れるようにちょいちょい指を出してくる。  …うざぃ…💢  また頭を叩きたい衝動を抑え、ペンを動かす。  卓が書き記した文字を、シロは撫でるように指で追ってゆく。 「たま、字綺麗だね」 そう言うシロの指先は、今日も艶やかだった。 「お前は爪が綺麗だな」 .
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