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ぴく、とシロの指が止まり、人差し指が視界から消えたと思えば、両手が日誌の上に載せられた。
「…あ?」
目線を上げると、にっこりと笑むシロの顔があった。
「…綺麗だな」
もう一度誉めると、シロの顔は更に喜びで溢れた。
「でしょ、」
そう言うと、女の子がするような仕草で、シロは自分の右手を翳した。
その姿が何だか絵になって、目の前の不可解な男が、愛らしいもののように思えた。
「たま、キャンディ食べる?」
ふと、思い出したように、シロは鞄を漁りながら問い掛けた。
「いや、いらない」
卓は再び手元に目線を落とす。
「はい、」
「…あ?」
ころん、と視界に転がるキャンディ。
「…いらねぇって言…」
「あーん」
「…は?」
目線を上げると、ここに入れてくれと言わんばかりに口を開けたシロの姿。
「…ふはっ」
愛らしい。
この愛らしさは何だろう。
俺は半ば呆れつつも、キャンディをシロの口元まで運んでやった。
…ら、
「てめ、舐めんなッ!」
「え、猫なりの感謝の表現なんだけど、」
「お前人間だろが!」
すかん、と日誌の角で叩きながら俺は、餌をやると舐めてくる猫の姿を思い浮かべていた。
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