死神のお仕事(Ⅲ)

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「それにね、彼を殺すことは必然なんだ」 「?」 「だって、運命の輪が乱れてしまうもの。彼がここで死ぬ事は運命なんだよ。初めから決められた、ね。ここで彼を生かすことはそんなに大したことじゃない。だけど、違う人が入学する予定だった大学に入学する。違う人と結婚するはずだった人と結婚する。本当はいるはずのなかった子供が生まれ、その子供も結婚する。そうやって誤差はどんどん大きくなっていき、輪の乱れもどんどん大きくなっていくんだ。わかる?僕の言ってること」 そしてフヨは、聞き取れないくらい小さな小さな独り言を言った。「中には、その決められた運命の輪を乱すやっかいな死神もいるんだけどね…」 ちょうどその時だった。あたしは「それどういう意味?」という、フヨの独り言に対する追求をしようと、口を開いた瞬間だった。 「俺を迎えに来たのか」 低い声が響いた。 振り向くと、そこに彼が立っていた。 「俺は響(ひびき)。よろしく」 そう言って、今時の若者には珍しく、握手を求める手を差し出してきた。 状況が掴めず、開いた口を閉じることも忘れ、呆然としたあたしがやっと気がついた時、既に反射的に手を差し出した後だった。冷たくも暖かくもない彼の手は、とても印象的だった。 幽霊のあたしが、どうして人間に触れることができるのか、そんな疑問もうかばないほどに。 そして次の瞬間、開いた口が、更に大きく開かれた。 この瞬間から“死”が始まった。
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