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死神のお仕事(Ⅳ)
「ちょっとかよちゃん?」
「ハァ、ハァ…な、なに…?」
あたしは息も切れ切れにフヨに返した。疲れた…。
「何考えてんの?急に走り出したりして」
「だ、だってさー…」
だって、あたしは響という人を殺すことになってしまった。
今まで人間を殺すことなんて、当たり前だけどちゃんと考えたことなんてなかったのに、心の準備なしで急にこういうことになってしまったのだ。
フヨに言えば、仕方のないことだとか、これが運命だとか、結局はこれが死神の仕事なんだから、と説得されることだろう。
そんなこと分かってる。理屈はわかるし、頭でもわかってる。だけど、あたしの心はまだそれに追いついてない。
記憶をなくす前のあたしは、どんな気持ちでこんな仕事をしていたのだろう。
あたしの中にまだ残ってる記憶からすると、あたしは人の死を簡単に考えるような、そんな人間ではなかった。命の重さは万物すべて平等だと考えていて、蚊に血を吸われている時でさえ、叩くのを躊躇うようなそんな人間だった。
馬鹿なあたしが、わざわざ猛勉強してまで死神になって、感情を押し殺してまで死神を続けていたというのだろうか?
あたしは走り続けた。どんなにしんどくても、どんなに疲れても絶対に足を止めなかった。
それはまるで、人を殺すという現実から逃げるかのようだった。
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