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「記憶喪失ならしょうがないよね」
そう言って、フヨは本棚から10cm程厚みのある薄汚れた本を持ってきた。
ここは死神としてのあたしの部屋で、起きた時もあたしはここに寝ていた。
女の子らしいものは何もなく、それどころか、あるのは古い木でできた最小限必要な家具類だけだった。どれもこれも今にも壊れてしまいそうなほど古く見える。
部屋全体がうす暗く、ちょっと動くと積み重なった何十年分かの埃が部屋の中を自由自在に舞う。
この部屋は人間が住む普通のマンションの一室で、入るにはちょっとコツがいる。適当な場所で適当な合言葉を言わなければならない。その合言葉は「自由を我らに!」だったが、何の活動をしているのかまったく分からない。
フヨが持ってきた本は“死神の基本&応用知識”と書かれていて、同じように埃を被っていた。
この本を使ってたのはいつなんだろう?あたしってそんな昔に死んでたのかしら?と思ったが聞かない方がいいような気がして口には出さなかった。
「さ、それ全部覚えなおして」
「は!?この本全部!!??」
「当たり前でしょ。知識がなかったら仕事なんてできないんだから。1時間くらいあればいけるよね?」
「無理だよ!あたし勉強大嫌いなんだから。本だってマンガしか読まないんだよ」
そうだ。あたしは勉強とは無縁の女だった。成績だっていつも中の下くらいで、「勉強しろ」と口うるさく先生に言われたものだ。
そんなあたしが、厚さ10cmの本を1時間で覚えられるはずがない。頑張っても目次を覚えるので精一杯だろう。
本当に死神試験に合格したのかと自分を疑ってしまう。
「あたし勉強より実践派なの。本読まなくてもフヨがああしろこうしろって言ってくれたらできるから、もう仕事始めようよ。」
「え~・・・」
「できるって。一回覚えてちゃんと仕事してたんでしょ?やってるうちに記憶も戻ってくるかもしれないよ」
「……。ちょっと待ってて」
そう言ってフヨは消えてしまった。パッと一瞬のうちに。現実生物じゃないって分かっていても、こういうのはやっぱりドキっとさせられる。
「OKだよ。ほんじゃあいこっか」
「ぎゃあっ!」
フヨはいきなり消えた位置と違う正反対の位置に現れた。ちょうどあたしの真後ろに。まだ慣れてないんだからそういうことはほんとちゃんと弁えてほしい。
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