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澄み切る青い空、そよ風に揺れる桜並木、全てを抱擁し慈しむ陽射し、あらゆるもの、人が活気づく――春が訪れた。
春は終わりの季節でもあるが、同時に始まりの季節でもある。一つの時季にすれ違う事象。それは、全ての人々に訪れ俺も例外ではない。
ただ俺に訪れたものは異質なものだった。
「お兄ちゃん、起きろ!!」
俺の朝はその一声から始まる。未だ覚醒しきらない脳が初めに認識をしたのは、紫を基調としたかわいらしい佐倉崎中学の制服にその上にピンクのエプロン、肩に掛かる程度に伸びた栗色の髪を右の上の方でポニーテールのようにしたちょうど俺の肩に並ぶぐらいの身長の仁王立ちした女の子。
妹の雪奈だ。
次に認識したのは首を百八十度回し日の入る窓際に置かれた目覚まし時計。時刻は七時ジャスト。一階の高校生が起きるには程よい時間である。
しかし、低血圧の俺にとっては起きるということは一つの試練……。
「……頼む…あと五分…。」
「だめっ!!」
妹の一言ともに鈍い音が響く。俺の意識は沈むことを許されず覚醒せざる負えなかった。俺は呻き声とともに一つの試練を越えていく。
「お兄ちゃん、おはよ。今日始業式でしょ。
初日から遅刻するよ。」
「ああ、おはよ。大丈夫だよ。
それよりも、低血圧な兄のためにもう少しまともな目覚ましを頼む。」
「お兄ちゃんが一回で起きないからでしょ。
早く着替えて、顔洗って、ご飯食べて。」
母親のようなことを言いながら足を返し部屋から出ていく。開けっ放しの戸口からは朝食の良い臭いが漂ってくる。
ようやく覚醒しきった脳が体を動かしパジャマから制服へと着替える。
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