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目の前の男は、体の震えを止めて、低い声で問う。
腰の刀に手をかけて。
「あ、あたしが先にいたんだからね」
反対に、あたしが体を震わせる。
「そうだったぜよ、すまんかったがや」
くるりと振り返ったその人は、腕でぐいぐいと顔を拭く。
あたしはあっけに取られて、口を開けたまま、全く身動きが取れなかった。
意外に、あっさりとした人だ。
怖い人じゃあ、なさそうだ。
顔を拭き終えた男は、目を真っ赤にして、ニッと笑った。
「先に名乗らんと、人に名ぁ聞くんは、失礼じゃったのう。わしは、坂本龍馬ちゅう。おんしは?」
坂本龍馬?
歴史の授業で習ったわよ、坂本龍馬。
確か、江戸時代の人でしょう?
「ふざけないで下さいよ。そんなに、坂本龍馬が好きなんですか」
「ん? おんし、わしのことが好きがぜよ?」
「はぁぁぁああ!?」
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