第一章 月見酒

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目の前の男は、体の震えを止めて、低い声で問う。 腰の刀に手をかけて。 「あ、あたしが先にいたんだからね」 反対に、あたしが体を震わせる。 「そうだったぜよ、すまんかったがや」 くるりと振り返ったその人は、腕でぐいぐいと顔を拭く。 あたしはあっけに取られて、口を開けたまま、全く身動きが取れなかった。 意外に、あっさりとした人だ。 怖い人じゃあ、なさそうだ。 顔を拭き終えた男は、目を真っ赤にして、ニッと笑った。 「先に名乗らんと、人に名ぁ聞くんは、失礼じゃったのう。わしは、坂本龍馬ちゅう。おんしは?」 坂本龍馬? 歴史の授業で習ったわよ、坂本龍馬。 確か、江戸時代の人でしょう? 「ふざけないで下さいよ。そんなに、坂本龍馬が好きなんですか」 「ん? おんし、わしのことが好きがぜよ?」 「はぁぁぁああ!?」
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