第一章 月見酒

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一人になって、改めて部屋を見回す。 明かりひとつで、まだ全然暗い。 あんまり見えないけど、広めの和室だということは分かった。 たたみ、床の間、押入れ、窓は障子。 あたしはそろりと窓の側に寄った。 障子を少しずつ開ける。 ……今日は、満月だったんだ。 いつの間にか月が昇り、往来を照らしていた。 月明かりが、ぼうっと部屋に差し込む。 そして、窓の外の景色も浮かび上がらせる。 窓の下は、さっき歩いたであろう、少し太めの道。 そして向こうには川が見えた。 きちんと石で整備されている、りっぱな川。 川、と言うより、水路みたいだった。 「ほお、立派な望月じゃ」 いつの間にか、ふすまのところに「坂本」さんが立っていた。 手にお銚子を二つ、持っている。 「月見酒じゃぁなぁ」 「坂本」さんはあたしのことも構わず、ズカズカ部屋の真ん中に進むと、ドカッとあぐらをかいた。 そして畳の上にお銚子を一本と、手の中にうずまっていたお猪口を並べる。 そして、手に残ったもう一本のお銚子を傾け、お猪口に並々と注いだ。 「ほら、何しちゅう。飲むぜよ」 すでにひとつのお猪口を手に持って構えている。 「……あたし、未成年だし」 「ん? 未成年? 何じゃそれは」 「ハタチにならないと、お酒を飲んじゃいけないの。あたしの国は」 「ほおほお。だけんど、それはおんしの国での話じゃろ。ここは、日本国ぜよ。関係ない」 ニカッと、子供みたいに笑う。 「あたしの国も日本なんだけどね。……まあ、いいか」 ここに、あたしの知り合いもいないみたいだし。 あたしもお猪口を掲げる。 月に向かって。 二人で声を合わせる。 「乾杯」
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