第一章 月見酒

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「だからってまさか、ほんとに全部なくなるとはね……」 あたしは盛大にため息をついて、草原に大の字に転がった。 目の前に広がるのは、目が痛いくらいの、青空。 思いがけず、温かいものが頬を伝う。 あたしはしばらく、草原のなかをあちこち、歩き回っていた。 正確には、草原ではなく、ちょっとした小山みたいだけど。 山を登りきったら、見慣れた東京の町並みが、一瞬にして、消えたんだもん。 だから、大きな爆弾が落ちたのだと、思った。 歩き回った挙げ句、あたしは諦めて、寝っ転がったのだった。 「ほんとに、なあんにもないんだ」 まるで、あたしを包囲するかのような、巨大なビル群も。 怒鳴るような、車のクラクションも、喧騒も、 埃っぽさも、なあんにも。 「消えて、どこに行ったんだろう。 ……けど、いいんだ。関係ない」 じっとりとした空気が、肌を覆う。 その割りに、時折、心地よい涼風が髪をすくう。 「関係ないのに、何で泣けるんだろう」 あたしは、力一杯、涙を拭う。 わずらわしい家族も、友人も、みんな、いない。 そう思っていたのに。 どうしてか胸を突き上げる悲しみは、一体何なんだろう。 あんなに嫌いだった自分だけが、どうしてか、生きている。
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