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「だからってまさか、ほんとに全部なくなるとはね……」
あたしは盛大にため息をついて、草原に大の字に転がった。
目の前に広がるのは、目が痛いくらいの、青空。
思いがけず、温かいものが頬を伝う。
あたしはしばらく、草原のなかをあちこち、歩き回っていた。
正確には、草原ではなく、ちょっとした小山みたいだけど。
山を登りきったら、見慣れた東京の町並みが、一瞬にして、消えたんだもん。
だから、大きな爆弾が落ちたのだと、思った。
歩き回った挙げ句、あたしは諦めて、寝っ転がったのだった。
「ほんとに、なあんにもないんだ」
まるで、あたしを包囲するかのような、巨大なビル群も。
怒鳴るような、車のクラクションも、喧騒も、
埃っぽさも、なあんにも。
「消えて、どこに行ったんだろう。
……けど、いいんだ。関係ない」
じっとりとした空気が、肌を覆う。
その割りに、時折、心地よい涼風が髪をすくう。
「関係ないのに、何で泣けるんだろう」
あたしは、力一杯、涙を拭う。
わずらわしい家族も、友人も、みんな、いない。
そう思っていたのに。
どうしてか胸を突き上げる悲しみは、一体何なんだろう。
あんなに嫌いだった自分だけが、どうしてか、生きている。
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