第一章 月見酒

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何を勘違いしたんだか、自称「坂本龍馬」は、あたしに抱きつくと、頭をガシガシと痛いくらいに撫で回す。 「そんなら、今だけ、着物貸してくれんかのう」 「はあ、何言って……」 あたしの返答を待たず、「坂本」さんは、あたしに抱きついたまま、さっきみたいに泣き始めた。 半平太、半平太、て。 誰か、大切な人を亡くしたのだろうか。 その、半平太さんって人を。 耳が痛くなるくらいの慟哭。 どうすることもできなくて、ただただ、その人の肩を抱くのみだった。 そして、あたしも泣いた。 どうしてか、今日は哀しい。
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