第一章 月見酒

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「すっかり暗くなってしもうたのう」 「坂本」さんは、困っているのだろうか、頭をガシガシ強く掻きむしる。 「……フケが」 「んあ? 細かいこと、気にしちゅうな」 お互い泣きつかれて、気がつけば陽は落ち。 あたりは漆黒の闇に包まれた。 ほんとに、死の町みたいだった。 街灯ひとつ無い。 人通りも、ない。 この世にいるのは、あたしと、この「坂本」さんだけなのだろうか。 あたしは急に心細くなって、「坂本」さんの着物の袂をグッとつかんだ。 「心配すんなや。すぐ、わしの宿があるきのう」 「へ?」 宿? ...って、ホテルよね。 なら、人がいる? なあんだ、とあたしは安心した一方、落胆した。 だって、結局何も変わっていないんじゃない。 ただの山奥に、なんでか置いてけぼりをくっただけか。
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