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「すっかり暗くなってしもうたのう」
「坂本」さんは、困っているのだろうか、頭をガシガシ強く掻きむしる。
「……フケが」
「んあ? 細かいこと、気にしちゅうな」
お互い泣きつかれて、気がつけば陽は落ち。
あたりは漆黒の闇に包まれた。
ほんとに、死の町みたいだった。
街灯ひとつ無い。
人通りも、ない。
この世にいるのは、あたしと、この「坂本」さんだけなのだろうか。
あたしは急に心細くなって、「坂本」さんの着物の袂をグッとつかんだ。
「心配すんなや。すぐ、わしの宿があるきのう」
「へ?」
宿?
...って、ホテルよね。
なら、人がいる?
なあんだ、とあたしは安心した一方、落胆した。
だって、結局何も変わっていないんじゃない。
ただの山奥に、なんでか置いてけぼりをくっただけか。
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