第一章 月見酒

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「そういやあ、名は、まだじゃったのう」 「坂本」さんはくるりと振り返り、あたしの目線に腰をかがめる。 「おんしの名ぁじゃ」 ああ、そういえば。 名乗るタイミングを忘れていた。 あたしはなんとなく気恥ずかしくて、視線をそらす。 そしてボソっと、 「……万里」 「ん?」 「だから、マ・リ!!」 「ほおお!! 海、みたいじゃのう」 「はあ?」 「坂本」さんは笑いながら歩き出す。 あたしの怪訝な目つきなんて、どうでもいいみたい。 「あめりかの言葉で、海は“まりん”言うがぜよ! 知らんがや?」 「それくらい知ってるけど」 「ほおお!! おんし、あめりかに興味があるんがや?」 「別に興味ないけど、英語ぐらいみんな習うじゃん」 「ほおおお!! おんしの生国では、みんながあめりかの言葉を習うんか!!」 驚き方が、いやに大げさだな。 生国って、なんだろうと思いながら、めんどくさいからうなずいておいた。
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