第一章 月見酒

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「げにまっこと、たまげたぜよ。進んだ国もあるんじゃのう。わしもまだまだ、視野が狭いのう」 何に関心しているんだかよく分からない。から、黙っておいた。 それに、「坂本」さんの話す言葉は、なまりがひどくって、東京育ちのあたしにはわけが分からない。 まるで外国語みたいだ。 英語なんかより、ずっとずっと、外国語みたいだ。 そうこうしているうちに山道を抜け、民家が立ち並ぶ集落に出た。 全部、木造家屋。 相変わらず街灯もない。 けど、多少の人通りはある。 ちょんまげをして、着物を着た人。 誰もが時代劇に出てくるようなちょうちんをぶら下げている。 いったい、ここはどこ? 時代村? 「坂本」さんは、一軒の家の前に止まると、バサッと元気よくのれんをくぐる。 玄関先には、「寺田屋」の文字が光る。 家じゃなくて、旅館だろう。 「お龍~!! 今帰ったぜよ!!」 「龍馬!!」 中から目鼻立ちのすっきりとした女の人が飛び出してきた。
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