第一章 月見酒

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「ちょいと、あんたどこ行ってはったんよ!! 役人が店先をうろちょろしてる、いうのに」 女の人も、やっぱり着物を着ていて、黒髪を結っていた。 「ははは、それはすまんかったなあ」 大きな声で笑う「坂本」さん、女の人はかなり怒ってるっぽいのに、全然堪えてない。 しかも、「龍馬」て、呼んでいた。 どういうこと? 坂本龍馬ごっこにこの人も乗っているってことかしら。 「で、この子はどうしたんよ」 女の人が鋭い目つきであたしを捉える。 美人ににらまれると、ちょっと怖い。 「そこの山で会うたぜよ。名前が、万里、ちゅう」 「マリン?」 女の人までそんなことを言う。 「ははは、やっぱお龍は面白いぜよ」 ……どっちもどっちだ、あたしからすると。 「そうぜよ。ここまで連れて来てしもたが、おんし、今夜は寺田屋でわしと泊まるかあ!!」 「なぁにアホなこと言うてるの!! どこのお嬢さんよ、家に送ってさしあげいや」 お龍さんと呼ばれた女の人は、とても強い口調でまくし立てる。 まったく、その通りなんだけど。 「あたし」 二人のやり取りを眺めていたあたしが口を挟む。 「ここに泊めて下さい」
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