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「よいしょ」
ようやく日も昇り始めたので、私は出発しようと荷物を持ち上げる。
元々この部屋には何もなかったし私自身も殆ど私物を持とうとしないため、荷物を持って部屋の外からそこを見回すととても寂しい雰囲気がしていた。
まるで誰にも必要とされていない自分に良く似たこの部屋は、今後誰かに使われるだろうか?
必要な物しか入れていない荷物を背負い、私は部屋を後にした。
きっと町の人だけでなく、孤児院のみんなも誰も私を送り出してはくれないだろう。
私は階段を降りながらそう考えていた。
階段を降りればもう出口は目の前だ。
気づいたら私は何故か涙を流しながら歩いていた。
誰か起きていたらきっと見られてしまうほど明らかに。
でもきっと、誰もいない……。
それなら、このまま泣いて歩いていこう。
私は階段の最後の段を降りた。
「お前何泣いてんだ?」
その時、思いもよらない声がした。
街へと続く扉の前で、一人の少年が仁王立ちしている。
声がするまで全く気がつかなかった私は衝撃を受けた。
泣いているところを見られてしまったのだ。
私は息を飲んだ後、小さく深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとした。
少年はボサッとした灰色の髪の毛をいじっている。
どのくらいいじり続けていたのか、髪の毛はいつもより癖が強く跳ねていた。
つり上がっている目は彼の性格そのものを表現しているようだ。
彼はやんちゃでいたずら好き、暴れていないと気が済まないタイプだ。
私に次ぐ問題児で、悪ガキみたいな彼の事を私は勝手に『ワル』と呼んでいた。
黄昏の彼が居なくなってから、私が当番の時に起こしに来るのはこのワルだけだった。
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