壱朝零夜:暁の娘

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「なっ、泣くなよな!」  私の様子を見て、ネクトはうろたえているようだった。  けれどもそんな様子は潤んだ目では窺う事は出来ず、ただ声で感じ取るだけ。  最後の最後でこんな事を言われるとは思ってもいなかった。  ただ、誰もが眠る明け方に、私は一人静かにここを旅立つだけだと思っていたのに。 「泣くなよ!」  今度はさっきよりも強く、繰り返されるネクトの言葉が余計に私の涙を誘う。 「……ネクトのバカ!」  違う。  バカなのは私だ。  誰もが嫌がると思って名前すら呼べなかった。  今より余計に嫌われるのが恐くて、近寄る事が出来なかった。 「それはレーメもだろ!!」  そうだ。  私も、そしてきっとネクトもバカだ。 「バカ……!」  最後の最後で名前を呼ぶ事になるなんて、思ってもいなかった。  最後の最後で名前を呼ばれるなんて、考えもしなかった。  私は止めどなく流れる涙を袖で拭った。 「ネクトなんか、ご飯作れなくてすぐ私に押し付けるし、目つき悪いし、頭悪いじゃない!だからネクトのがバカ!」  それを聞いたネクトはムキになって反論する。 「なっ!目つきは頭の良さにカンケーないだろ?!朝起こしてやってたのに随分な言い方だな!レーメなんかオレが起こさないと起きもしないだろ!少しはありがたく思えよ!」  これまでの二人の日常の堕落ぶりを披露して言い争っているのに、私もネクトも何故か笑っている。 「……」  ふと、会話が収まり、私とネクトの目があった。  ネクトは何も言わずに顎で扉を指し示し、右手を挙げる。  私も無言で、ほんの少しぎこちなく頷いた。
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