起:黄昏の温もり

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 黄昏の刻。  賑やかに話し合いながら子ども達は帰路についていた。  ある子は今日の夕食の話を、またある子は明日の遊びについて。  皆それぞれの話に花を咲かせて、楽しそうに暖かい家へと帰って行く。 ――わたしは孤独なんだ。  しゃがみこんで彼らを眺めていた少女はほんの一瞬だけ、その様子を見つめた。  けれど、黄昏時に微かに残された光の眩しさにうずくまってしまう。 ――暗くなったら……帰ろう。  そう思いながらも、帰る気などさらさらない。 ――それは、自分を誤魔化すための言い訳でしょう。  彼女はうずくめていた顔を歪ませた。自分自身の心の呟きは、自らの心を苦しめている。  夕焼けの光が眩しいなど言い訳に過ぎず、帰りたくは無い本当の理由は、彼らを見ていたくなかったからだった。  開いていた目を強く閉ざすと、彼女の視界は真っ暗闇に覆われてしまったが、何も見る事の出来ない闇に安堵する。 ――朝なんて来なければいいのに。  彼女は黄昏時を恐れていた。  何故なら、多くの笑顔が見れるその時は、彼らの顔ですら見ていたくない彼女にとっては苦痛な時間でしかないからだ。  それらが「また明日」と、明日を望む声を響かせると、彼女は自分が自身の殻に閉じこもり続けてしまいそうな錯覚に陥るのだった。
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