起:黄昏の温もり

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 ふと、少女は右隣に暖かな気配を感じた。  その温もりに閉ざしていた目を開けたが、彼女は顔をあげようとはしない。  代わりに、また異なる様子で顔を歪ませては、必死に表情を見られないようにとうずくまり続けようとしている。 ――このまま、時間が止まればいいのに……。  なかなか立ち上がらない少女に怒ることなく、暖かい気配はゆっくりと待ち続ける。  そうしていると、彼女が必死に押さえていた感情が静かに零れ出そうとしていた。  少女はただ、寂しかったのだ。  少女の揺れる感情に気が付いたのか、暖かい気配の主がゆっくりと動き出すように感じられた。 「……なでなで」  ふんわりと落ち着いて優しい声で、何故か仕草を表現して少女の頭を優しく撫でる。  暖かい温もり、暖かい気持ち。  その暖かさは、彼女の気持ちを揺るがす。 ――私は……一人でいたくない。  うずくまっていた少女は、少しだけ顔をあげた。隣には少年がいる。彼が彼女の頭を撫でていた。  彼は少女と目が合うと心配そうな瞳を向けて、撫でていた手を離して彼女の目元を拭う。 「……もっと、撫でていて欲しかったのに」そう感じた彼女は、もう一度うずくまろうとした。  彼はそんな彼女に優しく語りかける。 「おうちに帰ろ?」  彼は首を傾げて、黄昏時の微かな日差しのように黄金に輝く髪をふわりとなびかせた。  その色を飲み込んでしまうような彼の紫紺の瞳に、少女はたまに自分の心を見透かされているように感じる事がある。  少女は無言で頷き、立ち上がった。彼はそれを見て満足そうに微笑むと、彼女の手をとって歩き始めた。  その手はとても温かく、少女はその温かさにいつも心を癒されている。  失いたくない唯一の温もりに、彼女は強く彼の手を握りしめた。
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